近年、企業の成長には社内のリソースだけでは限界が見え始め、パートナー企業を活用する「パートナーセールス」が注目を集めています。しかし、多くの企業がこのモデルへの転換に苦戦している現状があります。
そこで登場したのが、「Partner Driven Marketing」という新しいビジネスフレームワークです。このモデルでは、従来見えにくかったパートナー企業との情報のブラックボックスをデジタル技術で解消し、パートナーの育成から成果の可視化までを体系的に管理します。
Partner Driven Marketingは、パートナーチャネルのプロセスを「リクルート」「オンボーディング」「アクティベーション」「リテンション」の4つの段階に分け、それぞれに適したKPIを設定しながら、ベンダーとパートナー間の関係を強化し、生産性を最大化することを目指します。
ここでは、この新しいモデルがどのように企業の成長をサポートし、どのように実践すべきかを詳しく解説していきます。
▼「Partner Driven Marketing」解説動画
Partner Driven Marketingとは
そもそもパートナーセールスとは?
パートナーセールスとは、メーカーが直接クライアントに販売を行うのではなく、販売パートナーを通じて商品やサービスを提供するビジネスモデルです。このビジネスモデルでは、メーカーは販売パートナーに顧客を紹介し、パートナーが営業活動を通じてクライアントに販売します。クライアントが商品を購入した後、メーカーはパートナーに対して手数料を支払い、双方が利益を共有します。
このモデルの利点は、パートナーがクライアントとの接点を持ち、現地の市場に詳しいことです。これにより、メーカーは自社のリソースを効率的に活用しながら、広範な市場にアクセスすることができます。また、パートナーの営業活動が促進されることで、より多くのクライアントにリーチできる可能性が高まります。
パートナーセールスの新手法「Partner Driven Marketing」
「Partner Driven Marketing(パートナー主導型マーケティング)」とは、従来はパートナーセールスが企業間を跨ぐチャネルであったため、情報の取得が難しかったものの、デジタル技術を活用してメーカーと販売パートナー間の情報を可視化・数値化し、それぞれのパートナーシップにおける課題を特定し、適切な対策を講じることで生産性を最大化するビジネスモデルのことを指します。
Partner Driven Marketingが生まれた背景には2つあります。
社内チャネルの成長限界
ひとつは、「The Model」を掲げるSalesforceをはじめとするさまざまなSaaSツールの登場によって、社内のセールスやマーケティングの改善活動が十分に進み、社内チャネルの生産性向上が限界に達しつつあることです。
社内の生産性が最大化されると、企業の成長にも限界が見えてくるため、社外、つまり販売パートナーを活用する必要が出てきます。「今までアプローチできなかった顧客」へのアクセスや、「自社以外のリソースを活用して販売量を最大化する」ことを目的に、パートナーセールスモデルへの転換が求められています。
モデルケースの不足
もう1つの要因として、多くの企業が「パートナーセールス」へのモデル転換に失敗していることが挙げられます。その理由は主に2つあり「手数料が低くてパートナーを動機付けできないこと」「商品が多すぎて新しい商材をパートナーが十分に学習できないこと」があります。
例えば、SaaSサービスでは単価が低いケースが多く、パートナーに十分な手数料を支払えないため、パートナーの動機付けが難しくなります。また、各ジャンルにおける商品数が非常に多いため、パートナー側から見ると、新しい商品をトレーニングし、提案できる状態にまで学習するための動機や仕組みが欠けていることが問題となります。
実際、Sairu社の日本国内におけるパートナーセールスのデータによると、成功している企業は全体の20%に過ぎず、残りの80%は「失敗」または「改善中」と、多くの企業がこの分野で苦戦していることが分かっています。
マーケティング、カスタマーサクセス、セールスの分野では「The Model」を中心にナレッジが確立され、広く共有されていますが、パートナーセールスに関しては、これまで型化されたナレッジがほとんど存在していませんでした。
一方で、海外ではこの領域におけるナレッジが十分に体系化されており、パートナーセールスに特化したコンサルティング会社や豊富なコンテンツが存在しています。しかし、国内ではまだ情報が不足している状況が続いています。
PartnerDrivenMarketingの解決する課題
PartnerDrivenMarketingでは、主に2つの課題を解決しています。
- 可視化の課題:企業間を跨ぐためお互いの情報が見えず、課題の特定ができない
- 仕組み化の課題:パートナーが販売するための動機付けや仕組みがない
企業間を跨ぐため情報が見えない。ゆえに課題が特定できない。
一般的にパートナーセールスでは、企業間や個人を跨いで協業するため、社外のリソースを活用することになります。しかし、この協業では「見える化」が難しくなり、結果として「課題を特定できない」という問題が生じます。
例えば、パートナー企業の現場営業の人数や連絡先、営業目標、業務の進捗状況といった重要な情報が不透明なままでは、ベンダーがパートナーの課題を特定することが困難です。そのため、効果的な改善提案ができず、結果として「案件の紹介をお願いします」や「勉強会の実施をお願いします」といった一般的な依頼にとどまり、より具体的なサポートを提供できなくなります。
新しく契約した商品をパートナーが稼働するための動機や仕組みがない
新規契約した商材において、パートナー企業が積極的に販売に取り組むための動機や仕組みが十分に整っていないことが課題となっています。販売時にインセンティブがある場合でも、売れるかどうかが不透明な新商材に対しては、既存のすでにインプットしている商材と比較して優先順位が低くなりがちです。
さらに、パートナー企業の現場営業は、新しい商材に関する研修や成約に至るまでの明確なプロセスが不足しているため、具体的な販売活動に移るための動機付けが十分にされていません。その結果、新規契約した商材が思うように販売されない状況が続いています。
PartnerDrivenMarketingを構成する4つのSTEP
PartnerDrivenMarketingの全体像
PartnerDrivenMarketingのプロセスは、「リクルート」「オンボーディング」「アクティベーション」「リテンション」の4つの段階に切り分けられます。WatchすべきKPIをプロセスごとに設けることにより、各プロセスごとの進捗状況や課題を明らかにすることができます。
つまり、各プロセスを切り分け、各プロセスごとに「動機付け」「可視化」「フォロー/標準化」を行うサイクルを回すことで、各プロセスごとの課題を”正しく”特定し、各プロセスごとで適切な打ち手を投じることを可能にします。
各プロセスでWatchすべきパートナーチャネルの「KPIの最適解」
これまで、パートナーセールスにおけるKPIツリーは各社独自であり、標準化されたフレームワークが存在しませんでした。また、多くのKPIがアクティブ率などを企業単位でモニタリングしており、社内セールスのように「パートナー担当者個人単位」での課題特定ができていない状態が続いていました。
しかし、Partner Driven Marketingでは、パートナーセールスの各プロセスを可視化し、リクルートからリテンションまでの段階ごとに詳細なKPIを設定することで、パートナーの活動を「個人単位」でも追跡・改善できる構造が構築されています。上記のようなKPIツリーによって、各プロセスでの進捗やボトルネックを正確に特定し、必要な改善策を迅速に講じることが可能になります。
次に、それぞれのKPIについて詳しく解説します。
プロセス | 注力すべきKPI | 目的 |
リクルート | 契約パートナー数 | 新規に契約を結んだパートナーの数。ここでのパフォーマンスは、パートナーとの協力体制を築くための重要な指標です。パートナー社内の営業人数との掛け算で、今後のアクティブな営業数のポテンシャルが見えてきます。 |
オンボーディング | 育成完了率 | 契約したパートナーが、どれだけ営業活動に必要なスキルを習得し、「商品を提案可能な状態」が整ったかを測る指標です。この率が高いほど、自社商品を提案できる営業担当が増えていることを示します。 |
アクティベーション | アクティブ率 | 育成を完了したパートナーが、実際に活動を開始し、営業に従事している割合です。ここでの成果は、パートナーがどれだけ積極的に販売に取り組んでいるかを示す重要な指標です。 |
リテンション | ・一人当たり提案数 ・受注率 | 稼働中のパートナーが、どれだけの提案を行い、その結果どれだけの受注を得られたかを測定します。一人当たりの提案数や受注数をモニタリングすることで、販売活動の効率を高めることが可能です。 |
「リクルート」-最適なパートナーターゲティング
パートナーターゲティング
パートナーチャネルの成功は、ターゲット選定に大きく依存しています。成功可否の50%はターゲティングにかかっていると言っても過言ではありません。
よく見られる失敗例として、大手SIerやディストリビューターと契約するものの、傘下のリセラーや営業担当者を十分に動機づけられず、「契約に時間をかけたが、実際の稼働には至らなかった」というケースがあります。
このような状況を避けるためには、単に大手と契約することを目標とするのではなく、現場の営業担当者にまでしっかりと動機づけを行い、実際に販売活動に移ることができるパートナーをターゲットにすることが重要です。
例えば、SaaSやIT関連のベンダーがパートナーを選定する際、事業規模や業界に合わせたターゲティングを行うことで、効果的なパートナーシップを構築することができます。以下に、具体的なパートナーマッピングの例を示します。
▼参考:ITベンダーにとってのパートナーターゲットマップ
開拓チャネル
ターゲットを選定した後は、パートナーを獲得するための開拓チャネルを設計する必要があります。
以下の画像では、主要な開拓チャネルを一覧にしています。特にパートナープログラムを開始したばかりの段階では、インバウンド施策に依存するよりも、ターゲット企業を自身で選定できる紹介やテレアポなどのアウトバウンド施策に注力するのが効果的です。
また、販売代理店(代理業を専門とする企業)をターゲットとする場合は、代理店募集サイトやマッチングプラットフォームを活用することも有力な手法となります。
▼参考:主要なパートナー開拓チャネル一覧
パートナー主導で販売活動を活性化させるパートナージャーニーサイクル
従来のアプローチとの違い
従来のパートナーセールスでは、パートナーへのインセンティブが販売実績(受注やアポイント獲得など)に対してのみ提供されることが多く、新規商材をパートナーが積極的に学び、提案するための動機付けが難しい状況でした。
特に、SaaSプロダクトなどの単価が低い商材の場合、パートナー担当者にとって「提案できる状態になるまでの学習コスト」が高く、実際に提案するまでに至らないケースが頻繁に発生しています。
一方、Partner Driven Marketingのパートナージャーニーでは、「オンボーディング(パートナー育成)」「アクティベーション(パートナー稼働)」「リテンション(パートナー継続稼働)」の3つのステップに分け、それぞれの段階で「エンゲージメント(動機付け)」を設定し、さらに「ステータスの可視化」と「フォローアップ」の仕組みを取り入れます。このように、段階を追ってパートナーを育成し、継続的に稼働させるフローを構築することで、販売活動を支援し、最終的な成果に結びつけることが可能になります。
パートナージャーニーサイクル
パートナージャーニーサイクルは、3つのSTEPと9つのプロセスで構成されています。
このサイクルの改善活動を回していくことにより、パートナーを段階的を追って育成〜継続稼働まで導くことができます。以下でそれぞれのSTEPについて解説します。
パートナーオンボーディング
STEP1のオンボーディングでは、パートナーが自社商材を「提案可能な状態」になることを”パートナー個人単位”で目指します。
パートナーが新規の商品を提案するためには、以下の3つを理解する必要があると言われています。
- サービスの理解:サービスの価値や類似製品との比較についての理解
- ターゲットの理解:どの業界・規模・どんな課題のある顧客に提案すればいいかの理解
- 営業手法の理解:どのようなトークや手法で理解すれば良いのか?申込手続きの理解
初期段階では、キーマン(パートナー企業内で影響力を持つ人物)を特定し、そのキーマンが社内で結果を出すことに注力します。その後、成果が出た営業の知識やノウハウを上記の3つの視点で型化し横展開していくことがポイントとなります。
オンボーディングにおいては、型化されたナレッジを以下のプロセスを踏むことで、全てのパートナーに装着していくことができます。
エンゲージ
パートナーの営業担当が自社商材をラーニングすることに動機付けすることが必要です。
パートナー企業の営業担当者に、自社商材を積極的に学び、提案するための動機付けが必要です。具体的には、以下のようなインセンティブが効果的です。
- 企業視点の例: 契約締結から30日以内に営業担当10名中8名がトレーニングコースを受講した場合、受注時の手数料率が15%から20%にアップする
- 営業担当個人視点の例: 契約締結から30日以内に対象のトレーニングコースを受講した場合、ギフトを提供する
エンゲージメントポイントを設計する際に重要なのは、「企業と営業個人それぞれの視点に分けること」と「期限を設けること」です。これにより、組織全体と個人の両方に対して明確な動機付けができ、目標達成に向けた行動を促すことができます。前者の例では企業全体のパフォーマンス向上を、後者の例では個人のモチベーション向上を意識した設計です。
可視化
デジタルツールを活用してパートナー向けのトレーニングプログラムをPRMで作成することで、オンボーディングの進捗状況を「個人単位」で可視化することが可能になります。
この可視化により、各パートナー担当者のオンボーディング完了率の推移を追跡し、進捗が遅れている担当者や支援が必要なポイントを特定できます。これにより、どのパートナー担当者に対して具体的な支援を行うべきかが明確になり、効果的なフォローアップが実現します。
▼参考:可視化の例
※デモデータになります。実際の企業/個人とは関係ありません
フォローアップ
オンボーディングの進捗が遅れているパートナー担当者を特定した後は、積極的にフォローアップを行い、進捗を促進することが重要です。
具体的には、未受講のパートナー担当者にフォローアップメッセージを送信し、トレーニングの受講を促すことが効果的です。また、オンボーディングが遅れている担当者が一定数蓄積してしまった場合には、期間限定のキャンペーンを実施し、インセンティブを付与することで、担当者が積極的にオンボーディングを完了するよう促すことも有効です。
▼参考:フォローアップ文章の例
パートナーアクティベーション
STEP2のアクティベーションでは、パートナーが実際に商材を提案・販売活動を行い、「初回稼働」に入ることを目指します。アクティブなパートナーは、企業の成長に不可欠であり、ここでのエンゲージメントが非常に重要です。
エンゲージ
パートナー企業や現場の営業担当者に、アクティブに商材を提案するための動機付けが必要です。具体的なインセンティブとしては、以下のような例が挙げられます。
- 企業視点の例: 契約締結から30日間以内にリードを一定数以上獲得した場合、受注時の手数料率が20%から25%にアップする
- 営業担当個人視点の例: 契約締結から60日以内に初回成果達成(初回受注など)に対してギフトカードを提供する
これにより、パートナー企業全体としても個人レベルでも、商材提案や販売活動に積極的に取り組む動機が生まれます。
可視化
パートナーのアクティベーション状況を共通の営業管理基盤(PRM)で「個人単位」で可視化することが可能です。これにより、どのパートナー担当者がアクティブに活動しているか、または支援が必要な担当者が誰であるかを明確に把握することができます。
アクティベーションの可視化により、リード数や提案状況の推移を追跡し、どのパートナーに重点的にフォローが必要かを判断します。
▼参考:アクティブステータスの例
※デモデータになります。実際の企業/個人とは関係ありません
フォローアップ
アクティブになっていないパートナー担当者に対しては、フォローアップが欠かせません。案件が停滞している担当者に対して、適切なタイミングでフォローアップメッセージを送信し、リードや案件の状況に合わせて必要な情報や資料を共有することが有効です。
また、データに基づいた自動化されたフォローアッププログラムを構築することで、定期的なフォローが可能になり、担当者の稼働を促進するサイクルが整備されます。
このプロセスで特に重要なのは、パートナーの初回成果をどのように評価し、それを他の社内担当者にも影響を与える形で伝えるかです。初回の成果を賞賛し、社内外の担当者に共有することで、他のパートナー担当者にも成果を促す活動につなげられます。共通のチャットポータルを活用して祝福のメッセージを送ることは、チーム全体のモチベーション向上に効果的です。
▼参考:初回成果の祝福メッセージ例
パートナーリテンション
STEP3のリテンションでは、パートナーが商材の提案・販売を継続して行い、長期的な稼働を維持することを目指します。パートナーの継続的な稼働を確保するためには、企業としても個人としてもエンゲージメントを高め、リテンション状況を可視化し、適切なフォローアップを行うことが重要です。
エンゲージ
リテンションを維持するためには、パートナー企業全体や個々の営業担当者に対して、継続的に販売活動を行う動機付けが不可欠です。以下のようなインセンティブを活用することが効果的です。
- 企業視点の例: 月間リード数が15件以上の場合、手数料率を25%から30%にアップする
- 営業担当個人視点の例: 毎月の目標リード数を達成した担当者には、追加のインセンティブやギフトを提供する
これにより、パートナーの継続的な活動を促進し、営業担当者のモチベーションを維持することが可能になります。
可視化
リテンション状況をPRMで可視化することで、どのパートナーが稼働を継続しているか、または離脱のリスクがあるパートナーが誰であるかを明確に把握できます。この可視化により、継続的な稼働が難しいパートナーを特定し、早期にサポートを行うことが可能です。
また、各担当者のパフォーマンスを個人単位で可視化することで、リテンションに向けた改善策をスピーディーに講じることができます。
▼参考:リテンション状況の可視化の例
※デモデータになります。実際の企業/個人とは関係ありません
フォローアップ
稼働状況が低下しているパートナー担当者に対しては、フォローアップが必要です。データに基づいた自動化されたフォローアッププログラムを活用することで、適切なタイミングでの支援が可能になります。
例えば、アクティブ率が大幅に下がったタイミングで新規キャンペーンを実施し、既存の成功しているパートナー担当者のナレッジを共有することで、稼働率を改善させることができます。また、パートナーが自発的に行動を起こすよう促すサポートが効果を発揮します。