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ニアバウンドとは?BtoB企業が今こそ導入すべき理由と実践手順

1. ニアバウンドとは何か?定義と概要

ニアバウンドの意味

ニアバウンド(Nearbound)とは、既存のパートナー企業や顧客、あるいは業界内で築いてきた人的ネットワークなど、“自社に近い存在”を活用することで新規顧客を獲得する手法です。具体的には、互いに補完関係のある企業同士が共同で提案を行ったり、既存顧客が新しい見込み顧客を紹介してくれる仕組みをつくったりして、信頼関係を橋渡しに営業を進めるイメージが強いでしょう。

たとえばソフトウェア会社同士が協力し、片方がCMS(コンテンツ管理システム)を、もう片方がマーケティングオートメーションツールを扱っている場合、それぞれの顧客に“両方のサービスを組み合わせると課題が一気に解決できる”と提案するケースなどが代表例です。購入検討側は、一社だけでなく複数の角度から提案を受けることができるため、より幅広い選択肢と専門的なサポートを一度に得られます。

BtoB企業での重要性

BtoBビジネスは、導入する製品・サービスの単価が大きく、決裁に複数のステークホルダーが介在しやすいという特徴があります。こうした複雑な購買プロセスにおいては、いかに早期に顧客に“安心感”や“信頼感”を持ってもらうかが成功のカギとなります。そこで、第三者の推奨や、業界内で評価の高い企業とのタッグがとても効果的です。

特に、日本国内では人間関係や企業間取引の履歴が重視される風土があります。そのため、既存顧客やパートナー企業を介した紹介や共同提案には非常に高い説得力が生まれやすく、商談転換率も自然と高まります。インバウンド(問い合わせを待つ)やアウトバウンド(自社からのプッシュ)だけでは取りこぼしていた“良質なリード”を効率的に拾い上げられるのが、ニアバウンドの魅力と言えるでしょう。

「ニア」の意味

インバウンド(Inbound)は顧客が自発的に訪れる(プル型)、アウトバウンド(Outbound)は自社から仕掛ける(プッシュ型)手法と整理されます。それに対して、ニアバウンド(Nearbound)は、「近い存在から顧客を呼び込む」というニュアンスが含まれています。すでに信頼関係がある第三者—たとえば、取引実績の長いパートナー企業やロイヤルティの高い既存顧客—を介すことで、受け手に安心感を与えながらアプローチできるわけです。

2. インバウンド・アウトバウンドとの違い

インバウンド(Inbound)

インバウンドは、ウェブサイトやSNS、ホワイトペーパーなどを用いて顧客から問い合わせや資料請求を“自発的に”起こしてもらう手法です。自社ブログで専門的な記事を書いたり、SEO対策を徹底したり、SNSでの発信を継続することで、見込み顧客が検索やソーシャルメディア経由でコンテンツを発見し、興味を持って問い合わせてくれるように導きます。

  • メリット
    • 見込み顧客が自主的に行動してきたリードであるため、元々の購買意欲が高く商談化しやすい
    • 作成したコンテンツが資産として蓄積し、長期的に効果をもたらす
  • デメリット
    • コンテンツ作成やSEO対策など、継続的なコストと労力がかかる
    • 多くの企業が参入し競争が激化しているため、費用対効果の確保が難しくなるケースがある

アウトバウンド(Outbound)

アウトバウンドは、テレアポや飛び込み、DMといったプッシュ型の方法で自社から積極的に仕掛ける営業です。短期間で多くのリードを獲得できる反面、興味のない相手にも大量接触せざるを得ないため、拒否されるリスクが高く、人的リソースやコストがかさんでしまいます。

  • メリット
    • 認知度の低い新製品・新サービスを短期的に広めやすい
    • 企業リストを活用して動けるため、対象をコントロールしやすい
  • デメリット
    • 門前払いが多く、担当者の心理的抵抗も大きい
    • 成果が不安定になりがちで、継続運用コストが高い

ニアバウンド(Nearbound)

ニアバウンドは、既存パートナーや既存顧客を起点に、信頼経路でリードを獲得するモデルです。インバウンドのように待つ必要もなく、アウトバウンドのように相手を強引に探す必要もありません。

  • メリット
    • 商談転換率が高い(第三者の推薦や共同提案で顧客の心理的ハードルが下がる)
    • 他社の力を借りることで、市場に対する訴求力や補完性が増す
    • “信頼”という資産を使うため、コスト効率が高くなりやすい
  • デメリット
    • 複数企業が絡むケースも多く、利害調整や役割分担をしっかり行わないとトラブルが生じやすい
    • 個人情報保護など、法的リスクを正しく管理しなければならない
    • 自社のみでコントロールできる範囲が限られるので、施策全体のスピードを調整しづらい面がある

3. ニアバウンドが注目される背景

アウトバウンドの効率低下

従来、BtoBの営業といえばテレアポや飛び込みが定番でした。しかし、近年では担当者が忙しくアポイントを取りにくいうえ、飛び込み訪問もオフィスセキュリティや個人の働き方の変化から受け入れられにくくなっています。結果、対応を得るためのコストと手間が一気に増大し、アウトバウンドだけで十分な成果を得ることが難しくなっているのです。

インバウンド施策の飽和

SEOやオンライン広告を活用したインバウンド施策も、今や多くの企業が当たり前のように取り組む時代になりました。その結果、広告費の高騰や検索エンジンでの上位表示難易度の上昇が顕著で、以前よりもリード獲得単価が上がる傾向にあります。さらに、少しでも検討度合いが高い顧客であれば、多数のベンダーを比較しようとするため、競合との奪い合いになりやすいのも現状です。

信頼・口コミの重視

BtoBの購買担当者は、一度導入したサービスが与えるインパクト(コスト・手間・成果)が大きいため、失敗を避けたいという意識が強いです。このため、判断材料として第三者の実績や紹介、あるいは業界内での口コミを非常に重視します。ニアバウンドであれば、すでに信頼関係のある存在を介することで、この“口コミ・評判”の要素をダイレクトに活かせる点が魅力となります。

4. ニアバウンド導入のメリット

高いアポ獲得率・商談転換率

ニアバウンドでは、飛び込みのように相手のニーズを推測して動くのではなく、パートナー企業や既存顧客が「この企業にはこのサービスが合うだろう」と感じて紹介するケースが多いです。そのため、初期段階からある程度合致度の高い見込み顧客とのやり取りが始まり、アポ獲得から商談化へのプロセスが円滑かつ高確度で進みます。

意思決定者に最短でアプローチできる

ニアバウンドの最大の魅力は、紹介してくれる既存顧客やパートナーが、すでに相手企業のキーパーソンと信頼関係を築いている点です。通常のアウトバウンド営業では受付や担当者で足止めされ、決裁権者にたどり着くまでに多くの時間と労力を費やしがちですが、紹介経由なら最初の接触段階から「信頼済み」の状態で話を進められます。そのため、単なる情報収集や資料請求にとどまらず、いきなり核心的な商談に入りやすくなります。

結果的に、「リードタイムを短縮」「営業工数を削減」という成果が同時に得られます。人的リソースが限られる中小企業やスタートアップにとって、ニアバウンドは限られた時間で高確度の商談を獲得できる有効な手段となるでしょう。

パートナー・顧客基盤の有効活用

多くの企業には、長年の取引や業界内でのつながりが確かに存在しますが、それを新規顧客開拓へと直接活かしきれていないケースが散見されます。ニアバウンド施策を展開することで、こうした“眠れる資産”を掘り起こし、実際に売上や商談創出に結びつけることが可能です。また、パートナー企業との関係を深めれば、今後新製品リリース時や海外進出などのタイミングでも協力してもらいやすくなり、長期的なシナジーが期待できます。

営業・マーケの連携強化

ニアバウンドでは、パートナー企業との協力だけでなく、社内でも営業部門とマーケ部門が連携して取り組む場面が多いです。各部門が共通の目標を認識し、データやノウハウを共有し合うことで、組織全体が一体感をもって成果を上げやすくなります。また、営業とマーケの距離が近くなることで、リード育成やイベント企画などが一層スムーズに進むようになる利点もあります。

5. ニアバウンドを実践する手順

1.既存ネットワーク・リソースの洗い出し

第一歩として、自社がどんなパートナー企業をすでに持っているのか、あるいは過去にどんな協業実績があったかなどをリストアップしましょう。具体例として、

  • 製品連携先:自社のサービスと親和性が高い企業
  • 販売代理店:代理店制度を敷いている場合、それぞれの代理店の得意分野や顧客層はどうなっているか
  • 既存顧客や過去顧客:特にロイヤルティが高い顧客は、別の企業を紹介してくれる可能性が高い

この棚卸しを丁寧に行うことで、すでにどの程度の下地が整っているか見えてくるはずです。

2.ターゲット選定と施策設計

次に、どのような企業層を狙い、どんなアプローチ方法をとるかを決めます。

  1. 紹介営業プログラムの構築
    • 既存顧客やパートナーが新規顧客を紹介してくれた場合、両者にインセンティブを用意
    • 「紹介して良かった」「紹介されて良かった」と感じられる仕組み作りを徹底する
  2. 共催ウェビナーやセミナー
    • パートナー企業と共同でオンラインウェビナーを開催し、相互にリストを共有する
    • それぞれの専門知識を活かしてセミナー内容を充実させ、参加者の満足度を高める
  3. 共同ホワイトペーパーやレポート
    • 自社とパートナー企業がもつノウハウを融合させ、総合的なレポートを発行
    • 資料請求をしてくれた見込み顧客は、両社でフォローアップして商談化を狙う

3.実行体制の整備と社内啓蒙

ニアバウンドで成果を上げるためには、営業部門(パートナーセールス部門)とマーケ部門が壁を越えて協力することが欠かせません。具体的には、

  • プロジェクトチームの発足:営業・マーケ・カスタマーサクセスなど関連部門を横断的に集める
  • 社内向けの資料・ガイドの作成:ニアバウンドの目的・メリット、成功事例、推進体制を分かりやすくまとめる
  • パートナー企業との共同キャンペーン:紹介営業の進捗確認や共催ウェビナーの打ち合わせなど

「この取り組みがどうして重要なのか」を社内全体に理解してもらうことが重要です。

4.KPI設定とモニタリング

ニアバウンドを導入して終わりではなく、継続的なモニタリングと改善が必要です。たとえば、次のような指標を設定しておくと成果が可視化しやすくなります。

  • 紹介営業経由のリード数・商談数・受注数:紹介プログラムがどれだけ機能しているかを把握する
  • キャンペーン数:どのくらいの頻度でパートナー企業とのセミナーやウェビナーを開催できているか
  • ROI(投資対効果):ニアバウンドに投じたコストに対して、得られたリードや受注利益がどの程度か

短期的には成果が見えにくいこともあるので、定期的にデータを収集・分析し、施策を微調整していくことが肝心です。また上記とあわせて、パートナーに紹介をお願いするときには「なぜその企業と接触したいのか」「今なぜ紹介が必要なのか」という目的とタイミングをきちんと示すことが重要です。紹介者の信用もかかっているため、依頼の背景が曖昧だと動きづらくなってしまいます。逆に言えば、狙いや期待する効果を明確に伝えるほど、紹介の質とスピードが高まりやすいでしょう。

そして、紹介が成立したら、できるだけ早く商談日程をセットし、相手企業が抱える課題やニーズを丁寧にヒアリングします。ここでは、「紹介してもらった企業」という信頼関係を活かしながら、いきなり本質的な課題に踏み込む提案が可能です。初期段階から相手の関心度を把握することで、よりスムーズに次のアクションへと繋げやすくなります。

6. ニアバウンド導入時に注意すべきポイント

パートナー企業との利害調整

ニアバウンドは、複数のパートナー企業と手を組むことが多いため、どちらがどの領域を担当するのか、あるいは売上・利益の分配をどのように行うかを明確にしておく必要があります。とくに、競合しやすい領域を扱うパートナー同士だと、提案の優先度や担当の線引きが曖昧だとトラブルの原因になります。事前に契約書や合意書などでルールを定め、Win-Winを実現できる形を模索しましょう。

また長期パートナーとしての関係を強固にする具体策は次のとおりです。

  • 紹介案件の進行状況をこまめに共有し、先方が成果までの道筋を把握できるようにする
  • 案件が成約・成果につながった際は、結果の報告と感謝の言葉を丁寧に届ける
  • 相手のビジネスにプラスとなる有益な情報や人脈を積極的に提供し、価値を還元する

こうした“互いに支え合う仕組み”があれば、紹介者は安心して次の候補先を紹介できるようになり、紹介件数と質の両方が向上します。短期的な売上だけでなく、長期にわたる堅固な営業基盤を構築するうえで不可欠なアプローチです。

成果測定の複雑化

ニアバウンドでは、複数社が共同でウェビナーを開催したり、リストを共有したりするため、どの施策が最終的な受注に貢献したのか追跡しにくい面があります。そこで、SFA(営業支援ツール)やMA(マーケティングオートメーション)を積極的に活用し、タッチポイントを可能な限り詳細に記録し、「この商談はどの経路で獲得できたものか」を可視化することが望まれます。定量的な評価ができれば、追加投資の判断もスムーズです。

7. ニアバウンドをさらに活かす:相性の良いマーケティング施策

MA(マーケティングオートメーション)の活用

MarketoやHubSpot、PardotなどのMAツールを導入しておくと、紹介営業や共同イベント経由で獲得したリードを一元管理できます。たとえば、ウェビナー参加者がセミナー後どのようなページを閲覧したか、メールを開封したかなど、行動データを蓄積することで、興味度合いが高まったタイミングで自動的に営業へ通知するといった運用も可能です。

共同ウェビナーやカンファレンス

ニアバウンドで得られたパートナー企業とのつながりを活かし、共催ウェビナーや業界カンファレンスを開催する手法は非常に効果的です。単独開催に比べて、

  • 広い集客ネットワーク:複数社で顧客基盤を持ち寄れる
  • 相乗効果の高いコンテンツ:各社の専門知識を組み合わせた深いテーマ設定
  • コスト分担:広告費や運営費などを共同で負担

などの恩恵を享受できます。イベント終了後のアンケートや質疑応答も含め、参加者データを共同で分析しながら次の施策へつなげられるのが最大の強みです。

紹介営業の仕組み化

ニアバウンドの代表例といえる紹介営業をスムーズに回すためには、紹介してもらえるだけの顧客満足度が前提条件として必要です。そのうえで、

  1. 紹介者メリット:紹介企業が成約に至った際の報酬や、インセンティブ率アップ、追加サポートなど
  2. 紹介先メリット:導入時の特別割引や優先サポートなど
  3. 報告・お礼の徹底:紹介後の商談進捗や結果を紹介者に伝え、感謝の意を示す

といった制度設計を行うことで、紹介が継続的に発生しやすい仕組みを作れます。お互いが満足できる関係を築くことで、長期的に優良リードを得られるチャネルになるでしょう。

8. まとめ:ニアバウンドを“自社成長のエンジン”に

ニアバウンドは、インバウンドやアウトバウンドのように一度に多数のリードを獲得する手法ではありません。しかし、すでに築いた信頼を活用することで、質の高いリードを効率良く得られる点が最大の魅力です。BtoB領域では、商談規模が大きく導入プロセスが複雑になるほど、第三者からの推薦や業界内評価が決定打になりやすい傾向があります。そうした市場背景から考えても、ニアバウンドは今後ますます存在感を高めていくことでしょう。

  • 高い商談転換率:既存の信頼を基盤にしているため、顧客の検討意欲が高まりやすい
  • 顧客体験の最適化:複数パートナーが連携してワンストップで課題解決を図ることで満足度向上
  • パートナー・顧客基盤の最大化:自社にとっての“眠れる資産”を見直し、有効活用するきっかけになる

もちろん、パートナーとの利害調整や個人情報保護、施策の成果測定など、気を付けるべき課題も少なくありません。急激にスケールさせるよりは、まずは社内外の合意をとりながら小さな成功事例を生み出し、そこから徐々に拡大していくのが現実的です。

もし、既存のインバウンドやアウトバウンドだけでは思うような成果が得られていない、あるいは新たなチャネルを模索しているという方は、ぜひニアバウンドを第三の選択肢として検討してみてください。信頼に裏打ちされたリレーションは、コストパフォーマンスの高い新規顧客獲得と、パートナーとの強固な連携を同時に実現し、あなたの企業の持続的成長を支える大きなエンジンとなるはずです。

また、ニアバウンドに加えて販売代理店を活用することで売り上げを伸ばすパートナーマーケティングの全体像については以下の記事で解説しています。

ぜひご覧いただき、パートナービジネスの成果拡大に役立ててください。

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