アライアンス契約、代理店・取次店スキームを開始するにあたって、手数料(インセンティブ)条件は今後の拡大に対して非常に重要な役割を果たします。
イケてないイ手数料条件を設定してしまうと、
「代理店と契約できない」
「契約したけど推進されない」
「代理店が獲得してくる顧客の質が低い」
など・・・様々な問題を引き起こしてしまいます。
そこで今回は、実際に大手企業にてアライアンスの実務経験のある著者が、手数料(インセンティブ)条件を設定する際に検討すべきことを紹介していきたいと思います。
またそもそも代理店ビジネスの仕組みについてはこちらの記事で解説しています。
「いい商材があるから全国展開したいが、社内のリソースが足りない。」 「取引先を拡大したいが、現在のチャネルのみでは限界」 商材の販路拡大を行おうとしても、現在のチャネルのみでは成長が限界を迎えていたり、新規施策はコストが読めな[…]
代理店の手数料とは
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代理店の手数料とは、代理店が自社の製品を販売したり紹介したりした際に、代理店に対して支払う報酬のことです。手数料の計算方法は契約形態などによって様々に異なります。この記事では、まず代理店に対する手数料の種類や契約形態による違いを解説していきます。
代理店に対する手数料の種類
代理店に対する手数料の種類として、よくあるものは次の3つです。
- レベニューシェア
- 固定成果報酬
- 固定手数料
①レベニューシェア
商品の金額のうち、一定の割合を手数料として代理店に支払うというものです。
【メリット】
- 成果に応じて報酬がもらえるため、代理店のモチベーションにつながる。
- 代理店が成果を上げられなかった場合は支払う必要がない。
【注意点】
- 自社と代理店の双方が正当な利益を得られるような手数料率を設定する必要がある。
②固定成果報酬
新規契約の獲得など、代理店の特定の成果に応じて、一定の成果報酬を支払うものです。
【メリット】
- 成果に応じて報酬がもらえるため、代理店のモチベーションにつながる。
- 代理店が成果を上げられなかった場合は支払う必要がない。
【注意点】
- 代理店のモチベーションを十分上げることができ、自社の負担にならない金額を設定する必要がある。
③固定手数料
年ごと、月ごとに固定の報酬を支払うものです。
【メリット】
- 予算計画が立てやすい。
- 代理店側にとってメリットが大きいため、長期的な関係を維持しやすい。
【注意点】
- 成果が出なかった場合にも支払う必要がある。
- 代理店のモチベーション維持のための工夫が必要になる。
モチベーションに繋げるため、固定成果報酬などを同時に取り入れている場合も多くあります。
代理店との契約形態による違い
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代理店に対する手数料の設定方法は、一般的に代理店との契約形態によっても違いが見られます。
紹介の場合
顧客に対する自社商品の紹介をしてもらう契約形態の場合、顧客と金銭のやりとりをするのは自社になります。そのため、手数料は紹介に対する成果報酬の形となるのが一般的です。
取次の場合
代理店に顧客獲得から契約決定までを任せる取次の場合も、顧客と金銭のやりとりをするのは自社になるため、紹介と同様に成果報酬になるのが一般的です。しかし、サブスクリプション制サービスの契約の場合は長期的に利益が発生するため、レベニューシェアによって、代理店側にも継続的に報酬が入るようにする場合もあります。
販売代行の場合
代理店に商品をおろし、代理店が直接顧客へ販売する販売代行の場合、顧客と直接金銭のやりとりをするのは代理店になります。この場合、代理店から商品の卸価格を受け取る形になることが一般的で、顧客への販売価格は代理店が設定できます。この場合、こちらから手数料を支払うことは基本的にありません。
代理店手数料の明確化と公正性の確保
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代理店との関係において、金銭的な利害が関わってくる手数料は問題の原因になりやすいものです。代理店との間で金銭的な問題が起こると、信頼関係にヒビが入り、良好な関係を維持することが難しくなってしまうため、手数料に関する問題の発生は可能な限り回避することが重要です。
そのためには、代理店への手数料の支払い条件や支払い方を明確かつ公正に定めることが重要です。ここでは、代理店手数料の明確化と公正性の確保のためにやるべきことを解説していきます。
- 契約前の話し合い
- 契約条件の文書化
- 定期的な契約改定
①契約前の話し合い
まずは手数料に関する規定を、代理店と話し合いながら進めていくことが大切です。パートナーとしての良好な関係を築き、パートナー側からの不満を避けるために、双方が納得できる手数料の規定を定めましょう。
また、最初の話し合いで勘違いがあると、後の問題に繋がってしまうため、条件や数値を明確化しておくことも重要です。具体的には次のようなことを明確化しておきましょう。
- 手数料の種類
- 手数料の割合や金額
- 支払いのタイミング
②契約条件の文書化
手数料の規定に関して、パートナー企業からの合意が得られたら、それを契約書として文書化しましょう。これによって、契約条件を確認しやすくなり、すれ違いを防止できます。また、万が一問題が発生してしまった場合に、責任の所在を明らかにし、問題をスムーズに解決するためにも役立ちます。
③定期的な契約改正
手数料の公正性を保ち、パートナーと長期的に良好な関係を保つためには、契約を締結した後も必要に応じて契約を見直し、改正することも大切です。特に契約してまもない間は、手数料の公正性について、パートナーと綿密なコミュニケーションを取りましょう。
契約を締結した時点では公正な条件だと思っていても、実際に働いてみると想定と違った…ということはよくあることです。仕事量に対して報酬が見合わないと感じたり、逆にこちら側にとって手数料が負担になるということもあるかもしれません。
また、契約が長く続いた後も、定期的に見直す機会を設けましょう。契約から時間が経つと、お互いの企業の置かれる状況や関係性も変化するものです。それに合わせて、適切な契約へ修正する必要が出てくることがあります。お互いに納得できる関係を保つためには、契約の見直しは非常に重要になります。
手数料条件を考えるときに検討すべきこと
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手数料条件のロジックを紹介する前に、条件設定のためには「何を検討すべきか?」について紹介したいと思います。ここで設定の目的を理解しておくことによって、後ほど解説するインセンティブ条件の納得感や社内で検討する際の拡張性にも繋がってくると思います。
またアライアンス全体において検討すべき内容はこちらの記事で解説しています。
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代理店に任せたい業務範囲を明確にする
まず、自社の業務範囲においてどこまでを代理店に任せたいのかを明確にしましょう。
そのためには、自社サービスの導入〜運用のためにはどのようなフローがあるのかを明確にする必要があります。
よくあるフローは下記になります。
①リード獲得
②申込
③オンボーディング
④カスタマーサクセス
⑤更新・継続利用
⑥アップセル・クロスセル
上記に記載したフローの中から、「どこの、どこからの業務」を代理店に任せたいのかによってインセンティブの条件の最適解を発見する必要があります。
ただし、代理店スキームは一般的に事業の拡大を目的に検討されることが多いので、4以降を獲得フェーズと合わせて設定することがあっても、4以降から任せることは稀です。
許容CACを可視化する
アライアンス契約を締結していくにあたり、手数料金額の上限となるのが社内で設定している許容CAC(顧客の獲得に上限としている金額)を明確にしましょう。
上記を検討せずに、仮に拡大したとしても他ファネル(マーケや社内営業など)と比較した際にCACの観点で悪ければ全体の生産性を下げてしまいます。
ただし、許容CACを超えてでも拡大を優先させたいフェーズなど、事業によっては様々のため、現在の企業フェーズに合わせた条件を設定することが重要です。
許容CACは、UnitEconomicsから求めることができます。一般的に、SaaSサービスにおいてUnitEconomicsは最低3以上になるように設計することが多いです。今回はUnitEconomicsが3になる前提で許容CACを求めてみましょう。
UnitEconomics = LTV / CAC
3 = LTV / CAC
3 = LTV / 許容CAC
許容CAC = LTV / 3
よって、許容CACは単純にLTVの1/3を目安に設定すると覚えておけばいいわけです。
念の為、一般的なSaaSモデルにおけるLTVの算出方法についても記載します。
LTV = 単価 ×(1 / チャーン率)× 原価率
代理店視点で注力商材になるか?をリサーチする
代理店は基本的にメーカーからのインセンティブを生業に生計を立てています。
そのため、どれだけ社内のCAC観点をクリアしていたとしても、代理店が実際にアライアンス契約を締結してくれなければ、拡大することはありません。
また代理店それぞれで、目標としている売上金額は様々です。自社サービスが「どの位の規模の代理店」「どの位の量の代理店」と契約をしたいのかを明確にする必要があります。
つまり、世の中に数多くある代理店に対して、どこの代理店をターゲットとし、どの位の代理店と契約したいのか、事業の拡大フェーズに合わせて検討するのが良いでしょう。
競合商材との比較
世の中には自社サービスだけでなく、数多くのサービスが存在しています。
そのため自社の視点だけで考えるのではなく、他のサービスを含めて検討する必要があります。
例えば、社内でどれだけインセン条件の最適解を出したとしても、競合商材がそれよりも良い条件で代理店に提案すればリプレイスされてしまうことは少なくありません。
競合商材の代理店市場環境を含めて検討する必要があります。
手数料(インセンティブ)条件のロジック
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ここまでは、代理店スキームにおける手数料条件を設定するために、何を軸に検討すればいいかを解説してきました。
では実際にどのようなロジックで手数料の条件を設定すれば良いのかを解説したいと思います。
手数料発生の成果地点の決め方
まず決めるべきは、前段で述べていた手数料を支払う成果地点を決めることです。
CAC観点で成果地点を決める
繰り返しになりますが、サービスの導入には下記のフローが一般的です。
①リード獲得
②申込
③オンボーディング
④カスタマーサクセス
⑤更新・継続利用
⑥アップセル・クロスセル
ポイントとして上記のファネル別に、社内のCACがどの位かかっているかを可視化することが重要です。例えば、下記のように現在他チャネル(マーケや社内営業)などで使用している全体のCACを可視化します。
ーファネル別のCACの例
- リード獲得:10000円/件
- 申込:20000円/件
- オンボーディング:30000円/件
- 契約更新:40000円/件
基本的には、それぞれの達成ポイントにおいて上記金額より低い金額で代理店との契約・実施ができれば全体のCACを下げることができるわけです。
社内の課題で成果地点を決める
次に、社内の課題がどこにあるのかを明確にしましょう。
例えば、リードの獲得が少なく、社内の営業担当の工数が余っている状況であれば、達成ポイントをリード獲得(自社セールスへのトスアップ)におくことで、社内の工数も踏まえて効率的に獲得することが可能です。
逆に社内の営業担当に余裕がない場合は、成果地点を申込にするなど、社内のリソース状況を将来的な観点も含めて検討することが重要になります。
顧客の品質で成果地点を決める
上記の成果地点の設定方法では、主に社内の視点で設定する方法を述べてきましたが、代理店の視点でも検討する必要があります。
よく起こる問題として、申込を達成ポイントにおき代理店スキームを開始した際、前述した通り代理店は手数料からの売上を生業としているため、手数料を目的に「利用意思の低い顧客」や「解約率の高い顧客」からの申込が増えるケースがあります。
商材によっては、顧客からのクレームが多発したり、メーカー側の売上に貢献しないことなどは少なくありません。
よって代理店活用したいサービスによっては、成果地点をオンボーディングまでにしたり、一定のアクティブ率が担保されないと手数料を減額するなど、品質を保つために何がボトルネックになるのかも合わせて検討する必要があります。
達成ポイントを複数に分ける
前段記載した顧客の品質を守るために、達成条件を複数設けることも有効です。
例えば、下記のように申込に加えてオンボーディングまでしたら追加で手数料を支払う。また月次で一定のオンボーディング率が担保されていれば追加料金を支払うなど、獲得だけでなく顧客のクオリティに対しても手数料率を設けることで、メーカーに安定的な売上をもたらすことができます。
■ケース1:申込+オンボーディング
・申込/件:10000円
・オンボーディング/件:+10000円
・合計:20000円/件
■ケース2:申込+オンボーディング率
・申込/件:10000円
・月間のオンボーディング率≧80%:+10000円
・合計:20000円/件
手数料形態をフローとストックにするか?を決める
近年では、SaaSやサブスクリプションといった、単発の購入(フロー)だけでなく継続利用(ストック)を前提としたサービスも数多く登場しています。
このようなサービスにおいては、単発での手数料支払い(フロー)でなく、継続的な手数料支払い(ストック)を設けることも有効です。
なぜならストック型のビジネスは、顧客の獲得だけでなく、顧客に継続してもらうことも重要になります。
そのためストック型の手数料体系にしておくことで、代理店は解約されないように獲得後のフォローも責任を持って実施することになり、代理店の業務範囲あを広げ社内工数を削減することが可能です。
一般的にストック型の手数料率は商品価格の20~30%程度に置かれることが多いです。
ここで注意しておきたいこととしては、サービス内容が解約率が低く、フォローが不要にも関わらず、ストック型の手数料モデルにしてしまうと、社内の工数は削減されないが手数料は継続的に発生することになります(Wi-Fiや電気など)。
自社のサービス特徴に合わせて、フロー/ストックを検討すべきでしょう。
代理店の売上目標を満たす
これまでは主に自社(メーカー)の視点で手数料の条件設定方法を解説してきましたが、ここでは代理店の視点で「いくらの手数料に設定するのが良いのか?」を解説していきたいと思います。
まずは下記のロジックをみてください。
一人当たりの月間獲得数×1件あたりの手数料金額 >= 一人当たりの代理店営業担当の目標売上
基本的に代理店にとってコストとなるのは、獲得するために稼働する営業担当の人件費にあたります。
■一人当たりの月間獲得数
そのため、代理店営業担当における「一人当たりの月間獲得数(手数料発生条件数)」と「1件あたりの手数料金額」を掛け合わした金額が「①人件費コストを上回る」「②代理店が目標としている売上を上回る」と代理店が継続的に営業担当を配置する経営判断を行うわけです。
一人当たりの月間獲得数=営業担当の月間アクション数 × 商品のCVR(購入率)
■代理店手数料の相場(一人当たりの代理店営業担当の目標売上)
代理店手数料の相場=一人当たりの代理店営業担当の目標売上を達成するかに依存します。
これは代理店によって様々ですので目安の相場を記載したいと思います。契約したい代理店規模に合わせて変動させる必要があります。
ー営業担当レイヤー別の月間一人当たりの売上目標(参考値)
- アルバイト:45万円~55万円
- 派遣:55万円~65万円
- 社員(新人):65~100万円
- 社員(ベテラン):100万円以上
■1件あたりの手数料金額
上記より、手数料金額の最低値は下記で求めることができます。
1件あたりの手数料金額=一人当たりの代理店営業担当の目標売上/一人当たりの月間獲得数
ここで算出した金額をベースとして、「どの位の規模/量の代理店と契約したいか」「競合商材の手数料」をベース金額に加味し検討することで、最適な手数料の設定範囲を導くことが可能です。(以下表1 手数料設計のテンプレートを参照)
表1 代理店手数料のテンプレート
なお、表1の代理店手数料のテンプレートはスプレッドシートとして配布しております。
ご興味がある方は、以下リンクをご確認ください
代理店のコミットを引き出す
代理店と契約した後、さらに件数や売上を伸ばしたいと考える際に、代理店のコミットを引き上げる打ち手を手数料条件に設けることができます。
ここでは2つの方法を紹介したいと思います
ポイント制度の導入
一つ目は、ポイント制度の導入です。
例えば、とある商材を1件販売するたびに手数料に加えてポイントを加算します。このポイント数によって代理店のパートナーランクを定義し、ランクが上がると手数料率の向上やサポートレベルの引き上げをすることにより、代理店のコミットレベル向上や離脱防止につなげることができます。
代表的な例で、docomoやUSENなどがこちらの方法を導入しています。USENのパートナー制度についてはこちらで一般公開されているので参考にしてみても良いでしょう。
ラダー条件の設定
2つ目はラダー条件の設定です。
ラダー条件を設定することにより、代理店経由での売上を見立てやすくすることができます。
例えば、とある商材の月間販売数により、一件あたりの手数料金額に価格弾力性を持たせます。
- 〜100件/月販売:10000円/件
- 100〜500件/月販売:15000円/件
- 500件~/月販売:20000円/件
こうすることで、代理店の規模に応じて代理店側の月間目標を設定することができ、コミットレベルの向上はもちろん、売上の見立ての精度も向上することが可能です。
手数料(インセンティブ)条件を運用するときのポイント
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各指標を可視化し総合的に判断する
ここまで様々な角度から手数料条件を設定する方法を解説してきました。
これまでの内容をまとめると、下記を軸として総合的に判断することで、企業にあった手数料条件を設定することができます。下記内容をまずは可視化した後、総合的に判断し手数料条件を決めることが大切です。
- 代理店営業担当一人当たりの売上生産性
- 競合手数料条件
- 手数料発生ポイントの条件
- 社内のリソース、課題
- フロー or ストックか
- 顧客の品質の担保
- 引出したいコミットレベル
まずは数社の代理店に絞り試してみる
手数料条件を設定したら、いきなり全ての代理店に展開するのでなく、まずは数社の代理店に対して契約し、検証してみることが重要です。
その際に、「実際に代理店に、契約/稼働してもらえるのか」「社内の課題とマッチしたか」「期待したボリュームに到達したか」などの検証ポイントをクリア、条件変更による改善をしたのちに、展開していくことをおすすめします。
契約の教科書をダウンロード
手数料設計が完了次第、パートナービジネスの契約書の作成を実施されるかと思います。
その際、契約形態の種類や、必ず盛り込むべき条項、気をつけるべきリスクなどを把握した上で、契約書の作成を進める必要があります。
上記の情報を網羅的にまとめておりますので、下記資料をぜひダウンロードください。