デジタル変革が進む現代において、SaaS企業と代理店の戦略的提携は、双方のビジネス拡大や競争力向上に欠かせない要素となっています。本記事では、SaaS企業と代理店が共に価値を創出し、持続的な成長を実現するための戦略やポイントを詳細を解説します。
SaaSにおける代理店ビジネスとは?
まず、SaaSにおける代理店ビジネスの概要について解説していきます。
代理店モデルの概要
代理店モデルは、企業が自社の製品やサービスを販売するために、他の企業と提携するビジネスモデルです。これにより、企業は自社のリソースを効率的に活用し、市場の拡大や顧客獲得が容易になります。また、代理店は製品やサービスを提供する企業の代わりに、顧客との関係を築くことができます。
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SaaS企業における代理店モデルの重要性
SaaS(Software as a Service)企業にとって、代理店モデルは特に重要です。なぜなら、SaaS企業はクラウドベースのソフトウェアサービスを提供するため、顧客と直接対面する機会が少ないためです。代理店を活用することで、SaaS企業は市場へのアクセスが向上し、顧客とのつながりが深まります。
戦略的提携の普及とメリット
SaaS企業と代理店が互いのリソースや能力を共有し、特定の目的を達成するための戦略的提携は、近年ますます普及してきています。B2B SaaS業界では特に人気が高まっており、2022年のパートナーエコシステムレポートによれば、72%のパートナープロフェッショナルが戦略的提携プログラムを持っていると回答しました。
戦略的提携がここまで普及してきたのには、代理店との提携が販路を大きく拡大する鍵となるからです。その理由を次の2点から説明します。
- 直販だけではメインストリーム層にアクセスできない
- 直販でリーチできない窓口も多い
①直販だけではメインストリーム層にアクセスできない
まず、直販だけではキャズム理論で言うメインストリーム層にアクセスできないと言われています。キャズム理論とは、新たな製品が市場に普及する際に、最初にアクセスできる初期市場から拡販するためには、溝(キャズム)を超える必要があるという理論です。キャズム理論では、顧客層を次の5つに分類します。
- イノベーター:2.5%
- アーリーアダプター:13.5%
- アーリーマジョリティ:34%
- レイトマジョリティ:34%
- ラガード:16%
上にいくほど、自分から積極的に新しい情報を取り入れ、最新の製品を試してみるタイプになります。特に上位二つの層、イノベーターとアーリーアダプターを合わせた16%程度が初期市場を構成し、残りの三つの層がメインストリーム層を構成します。
そして、キャズムは初期市場とメインストリーム層の間です。特に新商品の場合、直販でアクセスしやすい顧客層は初期市場を構成する全体の16%程度であり、キャズムを超えてメインストリーム層にアクセスするには、残りの84%に効果的にアプローチする必要があります。そのための有効な戦略の一つとして、代理店が注目されているのです。
②直販でリーチできない窓口も多い
特にBtoBビジネスの場合、拡販を考える上で、顧客の窓口にどのようにアクセスするかということも大切になってきます。企業は商品の購入の際、ITベンダー、総合商社、Sler、コンサルティング会社などに相談することが多々あります。特に中小企業の場合、購入窓口のうち直販の割合はたった24%です。できるだけ多くの窓口にリーチするために、効率の良い方法の一つが代理店戦略なのです。
代理店とSaaS企業の事例
戦略的提携により、SaaS企業と代理店は相互にリソースを活用し、事業拡大や競争力向上を実現できます。例えば、海外企業の事例でGenesys社は、顧客体験を向上させるために、技術リーダーシップや革新的なソリューション、業界専門知識を持つ戦略的提携パートナーと協力しています。また、SADA社はSaaS Alliance Programを通じて、クラウドネイティブ企業であるCysiv、PacketFabric、Quantum Metric、およびVirtruと提携し、彼らの成長を支援しています。
日本でも、多くのSaaS企業が代理店ビジネスを導入し、拡販に成功しています。ここでは、次の5社の事例を詳しく紹介していきます。
- 株式会社ラクス
- 株式会社うるる
- 株式会社SATORI
- 弁護士ドットコム株式会社
- Wovn Technologies株式会社
①株式会社ラクス
経費精算システム「楽々精算」などをはじめとし、様々な企業向けシステムを提供している株式会社ラクスは、代理店ビジネスによって拡販を成功させています。
販売パートナーには紹介パートナー、取次パートナー、卸パートナーなど、様々な形態があり、パートナー企業の希望や特徴に合わせた代理店ビジネスを行っています。営業支援、販売資料やデモ環境の提供など、サポート制度が充実しているのも特徴です。
公式サイト:https://www.rakus.co.jp/
②株式会社うるる
クラウドソーシングプラットフォーム「シュフティ」などを運営する株式会社うるるは、拡販のために取次パートナーと提携しています。契約からアフターフォローまでを自社で行い、パートナーには販売促進に専念してもらうことで、多くの顧客にアプローチすることを目指しているのが特徴です。
また、ランクが上がるほど報酬が増えるランク制度を導入することで、パートナー企業のモチベーションアップに繋げています。
公式サイト:https://www.uluru.biz/
③株式会社SATORI
提供:https://satori.marketing/partner-program/
マーケティングオートメーションツール「SATORI」の開発・運営を行う株式会社SATORIも、拡販のために取次パートナーと提携しています。パートナー企業に効果的な営業をしてもらうために、勉強会や営業同行などの基本的な教育だけでなく、マーケティング施策の情報や営業資料の提供など、自社も積極的に営業の改善方法を模索しているのが特徴です。
④弁護士ドットコム株式会社
提供:https://www.bengo4.com/corporate/news/article/zejn5n7i-f
クラウド型の電子契約サービス「クラウドサイン」などの提供を行う弁護士ドットコム株式会社は、クラウドサインの販売や利用促進を行うカスタマーエクスペリエンスパートナーと提携しています。研修動画の提供により、効率的な教育を行うだけでなく、販売促進資料やパートナー専用ポータルなどの提供、官公庁・自治体への販売活動支援など、営業に役立つツールや環境を整えているのが特徴です。
⑤Wovn Technologies株式会社
提供:https://mx.wovn.io/resource/partner
Webサイトやアプリの多言語化ソリューションの開発・運営を行うWovn Technologies株式会社は、自社サービスの紹介や販売を行うSales Partenerとの提携を行っています。Wovn Technologiesは自社商品の拡販を実現でき、パートナー企業は、自社の顧客の多言語化促進のために、Wovn Technologiesの利用を提案することで自社サービスの質の向上に繋げることができるという仕組みです。
SaaS企業側のメリット
代理店とSaaS企業が提携することで、互いに様々なメリットを享受できます。まずはSaaS企業側のメリットを紹介していきます。
- 低コストで販路を拡大できる
- 新たな顧客層にアプローチできる
SaaS企業側のメリット①低コストで販路を拡大できる
直販の販路を拡大するためには、直営店を新たに設けたり、営業の人員を増やしたり、マーケティングを実施したりと、大きなコストと時間がかかるのが一般的です。一方、代理店との提携による拡販では、それらにかかるコストや時間を削減できます。
SaaS企業側のメリット②新たな顧客層にアプローチできる
上でも説明した通り、直販だけではアクセスできる顧客に限りがあり、売り上げは頭打ちになりがちです。代理店ビジネスを取り入れることで、直販ではアクセスできない顧客層へのアプローチが可能になります。また、代理店は、地域や業界の専門知識を持っており、既存の顧客ネットワークを活用してSaaS製品の販売を促進できます。
代理店側のメリット
一方、代理店にとってもSaaS企業との提携はメリットがあります。主なメリットは次の2つです。
- 新しい価値を獲得できる
- ブランド力を高められる
代理店側のメリット①新しい価値を獲得できる
新たな商品やサービスを自社で開発するには、当然コストや時間がかかるものです。しかし、SaaS企業と提携すれば、その商品が新たな収入源となります。また、自社製品とのセット販売や、自社サービスの中でSaaS企業の商品を利用できる場合は、自社の商品やサービスの質の向上にもつながります。
代理店側のメリット②ブランド力を高められる
提携するSaaS企業が有名でブランド力が高い場合、その販売や紹介を行う代理店のイメージや知名度も向上することが期待できます。特に、自社の商品やサービスをSaaS企業の商品と組み合わせて顧客に提供する場合、自社商品のイメージがSaaS企業のブランドと結びつきやすくなります。
代理店とSaaS企業の協業における注意点
代理店ビジネスには様々なメリットがありますが、成功のためには注意すべきこともあります。ここでは、次の3つの注意点を解説していきます。
- 収益が代理店の成果に依存する
- 競合他社の商品との差別化が必要
- 綿密なコミュニケーションが必要
注意点①収益が代理店の成果に依存する
代理店ビジネスは一般的に自社商品の拡販のために行われますが、ただ多くのパートナー企業と提携すれば、自動的に売り上げが上がるわけではありません。パートナー企業が成果を挙げられなければ、当然収益は伸びないため、営業支援や自社商品に関する教育など、必要なサポートを提供する必要があります。
また、収益がどうしても伸び悩む場合は、原因を探り解決策を提示するなど、マネジメントやコンサルティングも必要になります。
注意点②競合他社の商品との差別化が必要
直営店とは異なり、一般的に代理店は、自社の商品だけでなく、競合他社の商品も同時に扱っています。そんな中で、自社の商品を他社の商品よりも積極的に販売してもらうためには、他社との差別化が必要です。インセンティブなど、代理店が自社の商品を販売するメリットを提供したり、他社に対する自社製品の長所を理解してもらったりと、様々な工夫をすることで販売促進に繋がります。
注意点③綿密なコミュニケーションが必要
代理店はあくまで自社とは独立した企業であるため、社内と比べて情報共有が難しくなる傾向にあります。契約締結の前後に、必要なすり合わせや自社に関する説明をするのはもちろんのこと、その後も代理店の状況を正確に把握し、効果的なサポートを提供するためには、定期的なミーティングの機会を設けることが大切です。
また、自社の状況が変わったり取り扱っている商品に変更点が出たりした場合は、その都度セミナーや勉強会を実施し、情報を共有することも必要になります。
代理店を活用したSaaS企業の成長戦略
SaaS企業が急速な成長を続ける中、代理店との戦略的提携が重要な役割を果たしています。ここでは、SaaS企業と代理店が互いに成長を促すための戦略や、その成功要因を詳しく解説します。
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市場へのアクセス拡大
代理店は、地域や業界に精通しており、顧客とのつながりが強いため、SaaS企業は代理店を活用することで市場へのアクセスを拡大できます。代理店は、新しい顧客を開拓するだけでなく、既存の顧客に対してもSaaSサービスを紹介することができます。
信頼性とブランドイメージの向上
代理店は、顧客との長期的な関係を築いているため、SaaS企業の信頼性やブランドイメージを向上させる役割を果たすことができます。顧客は、代理店が提供するSaaSサービスに対して信頼を寄せることが多く、導入や利用が容易になります。
カスタマイズとサポート
代理店は、顧客のニーズに合わせたカスタマイズやサポートを提供することができます。これにより、SaaS企業は、顧客満足度を高めることができます。また、代理店は、顧客のフィードバックを収集し、SaaS企業がサービスの改善に活用できるようにする役割も果たします。
販売とマーケティングの効率化
代理店が販売やマーケティング活動を行うことで、SaaS企業はリソースを効率的に活用することができます。また、代理店は、業界や地域に特化した販売戦略を展開することができるため、SaaS企業の販売効果が向上します。
パートナーシップの強化
SaaS企業は、戦略的提携を通じて代理店とのパートナーシップを強化することができます。これにより、リソースの共有や相互の利益を享受することが可能になります。例えば、Genesys社は、技術リーダーシップや革新的なソリューション、業界専門知識を持つ戦略的提携パートナーと協力しています。また、SADA社はSaaSアライアンスプログラムを通じて、B2Bクラウドネイティブ企業を支援しています。
代理店とのパートナーシップを強化することで、SaaS企業は市場シェアを拡大し、競争力を向上させることができます。また、顧客との関係を深めることで、顧客満足度やリピート率も向上します。戦略的提携は、SaaS企業にとって重要な成長戦略の一つであり、代理店との協力を通じて業界全体の発展を目指すことができます。
代理店とSaaS企業の協業を成功させるポイント
代理店とSaaS企業が協業する際には、以下のポイントが重要です。
明確な目標設定
両社は提携の目的や期待する成果を明確にし、それに基づいて戦略を策定することが重要です。また、定期的な評価とフィードバックを行い、協業の成果を最大限に引き出すことが求められます。
コミュニケーションの重視
代理店とSaaS企業の間で円滑なコミュニケーションが行われることが、協業成功の鍵となります。双方がオープンで透明な情報共有を行い、継続的なサポートを提供することが必要です。
互いの強みを活かす
代理店とSaaS企業が互いの強みを理解し、活用することで協業がより効果的になります。例えば、代理店の地域や業界の専門知識とSaaS企業の技術力を組み合わせることで、より強力な製品やサービスを提供し、顧客満足度を向上させることができます。
代理店との提携におけるアライアンスマネージャーの役割
アライアンスマネージャーは、SaaS企業と代理店間の提携を円滑に進め、双方の利益を最大化するために重要な役割を果たします。
アライアンスマネージャーのスキルと認定プログラム
アライアンスマネージャーは、代理店との提携において重要な役割を担っており、戦略的提携の成功に不可欠なスキルを持つ必要があります。アライアンスマネージャーの役割には、多くの場合、長年にわたる経験と専門知識が求められます。アライアンスマネージャーが持つべきスキルを磨くために海外においては、ASAP認定やCertificate of Achievement in Alliance Management (CA-AM)、Certified Strategic Alliance Professional (CSAP)といった認定プログラムが利用されています。
提携成功のための要因
提携の成功には、いくつかの要因が重要となります。以下は、提携成功のための要因をいくつか挙げたものです。
- 提携が核となるビジネス目標の達成に重要である。
- 提携が事業の主要要素の開発や維持に重要であり、競争優位性を提供する。
- 提携が競合他社にブロックを作る。
- 提携が戦略的選択の構築や継続を促す。
- 提携が大きなリスクを軽減する。
アライアンスマネージャーは、これらの要因を考慮し、代理店との提携を最大限に活用することで、SaaS企業の成長戦略に貢献することができます。
まとめ
代理店とSaaS企業との提携は、双方に多くのメリットをもたらす協業形態です。市場アクセスの拡大や収益源の多様化、ブランド価値の向上など、互いに成長を促す要素が含まれています。
提携成功のためには、明確な目標設定、コミュニケーションの重視、および互いの強みを活かすことが重要です。
また、アライアンスマネージャーがその役割を果たすことで、協業関係の維持・発展に大きく寄与します。このような取り組みを通じて、代理店とSaaS企業は共に成長し、競争力を高めることができるでしょう。